ゆらり、視線をめぐらすと、目が。 空気を肺に確保して、すぐに解放する。 虜囚は酸素と二酸化炭素の比率を変化させて、しかし少しの乱れも無かったかのように散じていく。 大きなため息、と敏感に眉をよせたのは幼げな外装のルピ、だ。大きな瞳をいやみに細め、笑みをつくる。 もちろん不快を与えるための。どうやら虫の居所が悪いようだ。 なんだい、やっぱり自分の男は心配かい?ルピは露骨にコトを聞く。 そのある意味素直すぎる部分が市丸ギンを楽しませるのだとルピ自身は気づいていないのだろうか? まさか対等だとは思ってないだろうが、傍からみればルピなどはただの暇つぶしの玩具に近い。 心配?なぁにそれ。何か楽しいモノ? わざとにっこりと返してみる。ルピは憎らしげに顔をしかめて、ふいと顔をそらした。 そんな嫌味らしい嫌味などで人が傷つくものか。むしろ笑える。 ふう、と息を吐き出す。 心配ではない。 私は、指一本動かすのだって面倒なだけだ。 あの男に心動かされることが、たまらなく不可思議に思うだけだ。 思慮とも分別とも縁遠い、この狂った感覚が。 ぞくりとする。 目があってその色素の薄い眸を認識すると同時に釘付けにされてしまう。 それが追い詰められた鼠の本能なのか、血の予感に高揚する蛇の舌なめずりかはどうでも良い。 どっちでも同じだ。逃げるには遅い。 グリムジョー? 私はいつも、その視線に耐え切れなくなって名前を呼ぶ。視線が苦痛なのではない。 歓喜とも陶酔とも交わるその感覚に、耐え切れないのだ。 グリムジョーは、何の動機を以って私を視るのだろうか? 私を戒めて、泳がせるのだろうか。 逃げるには、遅いのだ。 無意識に意識が触れる。 まだそばに居座っていたルピが顔をしかめる。 、想い人がご帰還だよ。 そうみたい。 気の無い調子で肯定する。ルピは一向に懲りない。東仙統括官はお怒りだよねぇ。どうなるかなぁ? 良いコトを思い出したかのように笑う。 楽しそうね。 にっこりと返してみる。 ルピは、いやみに目を細めてわらった。 あんなやつ、殺されて来ればよかったのにさぁ。