「え、・・・?」 どうして、と裏切られた気持ちが反射のように湧きあがった。 でも実際、オレは彼の何も知らないに等しい。半年前に初めて会って、何度か遊びに来てくれて、何度も迷惑をかけてしまった、それだけだ。 でも、それだけでも十分彼はオレたちの好ましい、知り合いで。 おこがましくも思うなら、友人、で。 なぜ彼はオレたちを見下ろしているんだろう。オレたちの敵の隣で、まるで仲間の傍によりそうように。 それは、リング争奪戦の幕開けの夜。 チェルベッロ機関と名乗る女たちが去った後、悠々と立ち去ろうとしたヴァリアーに、父さんが待て、と鋭い声を上げた。 これ以上ヴァリアーの殺気の中に居るのは身が持たないというのに、なんてことをするんだろうか。 もうどうでもいいから、家に帰って布団をかぶってしまいたい。そして全部、夢になったらいいのに! 「う゛お゛ぉい!!これ以上まだ文句付ける気かぁ!」 銀髪の人が張り詰めた空気に怒声を出す。父さんはその音量に怯む様子もなくザンザス、と低い声を出した。 「もう一つ聞く。・・・は、どこに居る?」 ?どうしてここで、の名前が出てくるんだろう。 父さんがじっと見つめるザンザスのこめかみが、ひくりと動く。 「俺はココだよ、家光」 その一瞬で増した殺気に腰を抜かす直前、息苦しい夜の空気を裂くように、聞き覚えのある声がした。 同時にが、姿を現す! よりにもよって、ザンザスの横に!! 「!?」 思わずあげてしまった大きな声。獄寺くんや山本たちも、驚く声を出すのが聞こえた。 どうして! はっ、と父さんを見れば驚きではなく眉根を寄せた、そう、沈痛の表情でを見ている。 その後ろにいるバジルくんの驚愕の顔もはっきり分かった。 「つまりさ、“成り下がった正統者”は、八年前と同じ選択をとるってことだよ」 「・・そう、」 小さなマントの人影の冷静な声に続けて、が口を開く。聞きたく、ない。その言葉は! だから、オレはとっさに口が出てしまった。 「な、成り下がった、正統者・・!?」 「はっ!そんなことも知らねぇのか ぁ?そんなんでよくもリング争奪戦だなんて言えたもんだな!」 銀髪の騒々しい声が耳をつく。 こわい、と思っていたその声がやけに。 「何も知らずにコイツと仲良しだなんて思ってる奴等に、ボスだなんて図々し過ぎんだよぉ」 周りを守ってくれている皆が色めき立つ。 何も知らないオレが闘おうだなんて、護ってやるだなんて、確かに図々し過ぎると思う。ずるいのかもしれない。 でも。けれども! ぐっと、唇をかみしめる。 「うるせぇんだよ、ドカスが」 「ってえな!何しやがる!」 黙っていたザンザスの手が伸びて、引きずり寄せた銀髪の腹に鈍い音をたてて蹴りが入る。 虚を突かれながらもまるでダメージを気にしない様子で、突き放された銀髪がわめくが、ザンザスはの腕を乱暴につかみ立ち去ろうとしている。 一瞬の暴力に唖然とするオレたちをおいて、ヴァリアーが身を翻す。 ああ!いい加減訳がわからなくなりそうだ! 身を貫くようなザンザスの最後の眼差しに、とうとう、膝から力が抜けた。へなへなと座り込んでしまう。 口をつぐんだの表情は、窺うことができなかった。 「・・あいつは、元10代目候補だ」 リボーンは大したことではないというようにオレたちにそう言った。 「っなぁ!?」 「り、リボーン!!」 「事実だ。=は9代目の四人目の甥っ子だ」 「じゃあ、どうして!?」 「どうして10代目候補じゃないのか、か?」 「っ、リボーンさん」 獄寺くんが先回りされて言葉に詰まる。 そうだ、なんでオレなんかより断然強いが、10代目じゃいけないんだろう。成り下がった正統者、それは。 「・・・あいつは、自分から辞退を申し出て、それを9代目が認めたんだ。ボンゴレのボスではなく、部下に留まることを誓っている」 リボーンの眼が、まっすぐにオレを見た。オレは、リボーンみたいに読心術なんて使えない。 でも、その眼は逃げるなとはっきり言っていた。 受け止めろと、教えていた。 「真っ先にザンザスに服従を示し、徹底的に立場を抑え込んで、誰にも利用されないように孤立した。 ・・今回も、あいつはザンザスについたみてーだな」 は、敵だ。 リボーンは当たり前のことだというように、そう言いきった。 でも、それでも、オレは。 は敵なんかじゃないと思ってしまう。オレは何にも知らないけど、ただの願望なのかもしれないけど。 力なんて無いのを知っている。まわりを頼ってばっかりのダメな奴だ。 オレなんかじゃ誰も、一人だって何からも救えないのかもしれない。 でもオレは、誰かを救いたいと思う気持ちをもう、押し込めることはできないんだ。 →next