得れば止む渇望などないのだ。

 埋めればうめる程に隙間は零れ落ちていく。


 ならば、終わらせる為に。














 ぎしり、と空気の層を押し曲げて破壊のためだけの衝撃が散った。

 ぼんやりとそれを眺めながら嗚呼結局は、と嘆息してみる。


 ぶつかっては弾ける白と黒。轟音を巻き起こす青と橙。相反して、相殺する。





 ウルキオラ、と名を呼んで。
 素直に此方を向いた白い面に褒美として、甘く微笑んでみせた。

 過剰な重圧と土煙に紛れたグリムジョーの掌に、ウルキオラは紛れもなく悪態をついて退場した。

 余計な手を出すなと歪む顔にも微笑みを送ると、舌打ちと共に視線を外された。
 一言だけを、放って。

 邪魔だ、どっか行ってろ。





 そうして仕立てられた舞台に、嬉々として立つグリムジョーの眼には死神しか入ってはいないようだった。

 熾烈を極めてきた闘いに、織姫の歎願が響く。
 なんと、慈悲深いことだ。

 死なないで。


 遠いような意識のまま目を伏せた。

 グリムジョーの咆哮を聴く。


 グリムジョーの想いなど知らない。
 グリムジョーの過去など要らない。

 グリムジョーの願いなど、聞かなくていい。


 
 ただその、世界へと向けられる咆哮だけが意識に残った。

 王者の孤独なんて、私には解らない。



 世界に敵対する意思だけが。


 「俺が・・!」



 強烈に、私に、焼き付けられるのだ。



 「 俺が 王 だ !!! 」



 そうしてその咆哮に意識全てを奪われた私の目に、崩れ落ちるグリムジョーが映った。


 嗚呼結局、埋め得る空虚など、幻想でしかない。












 ざくり、と足下で砂塵が鳴った。

 荒く息を吐くグリムジョーの頭上から見下ろした形。
 苦しげに顰めた眉の下で、目蓋は閉じられている。

 闖入者と死神の喧騒は遠くはないが、如何でもよかった。

 「」

 ハ、と大きく一息を押し出して、緩々と瞳が開かれる。グリムジョーが皮肉げに哂う。

 「、笑いにでも、来たのかよ」

 どうしてなのだろう。
 
 「ねぇ、グリムジョー」

 地面に伏すがままもう起ち上がれもしないのに、その眸だけが獰猛だった。
 光をはらんだ様に、薄いあおに色付いた。

 切裂かれた傷から流れるてらりと光に反射する血が、酷く対照的だ。


 おかしい。
 変だ。

 狂っている、ようだ。


 「囲いを、壊したかったの?」


 それとも。


 「世界に壊れて欲しかったの?」


 正常に過ぎるの、だろうか。


 「藍染の創ったこの天蓋は、窮屈?」



 「関係ねぇよ」

 目障りだから潰す。気に喰わねえから殺す。それだけだ。

 ぶっ壊れちまえばいい。


 「俺が、壊す」


 獣の唸り声。本能を叫ぶ眸。

 生きるためにだけ生きている。
 保身は無い。
 身体に刻みこまれた反射。

 頂点に立つためだけ。

 孤高たるだけの為の、王者。





 追い詰められて、気が付かされた。
 人間じみた怠惰に。私がずっとしがみついていた虚構に。


 なんて酷いのだ。


 逃げることを赦さないなんて。


 何を失うのが憎かったのか。
 何を壊すのが厭だったのか。

 何を願うのが、怖かったのか。


 全て忘れてしまって、虚無ばかりの自分は保身のために世界に紛れるしか、出来なかったのに。


 曝されてしまった。

 ならば生きなければ、ならないじゃぁないか。



 「ねぇ」

 だから、グリムジョー。


 「私にその瞳を、頂戴」










 グリムジョー。

 貴方が私を壊せばいいのだ。