舌の上で、甘い香りを転がすように、言葉をかみしめてみる。 そのことばは何時だって口内で溶けきって、外気に触れることはないのだけれど。 ディーノ、と名前を呼んだ。 呼んだ、と思ったのだが寝起きの頭では上手く認識できなかったのか、擦れた吐息だけが自分の耳に届いた。 わずかに危ぶんだ気持ちを裏切り、枕元の恋人は、そっと手をのばしてくれた。 「わりぃ、起こしちまったか、」 柔らかくやわらかく、マフィアのボスというには余りにも不釣り合いな温もりがそこに在った。 いいや、そんなこと関係ない。 ディーノの謝罪を退けるのと同時に、自らの思考に首を振った。 「・・いいよ。ディーノ、だから」 ディーノが居てくれて、とても嬉しかったから、良いのだ。 ここに居てくれるのは、唯の、自分の恋人。 ふわふわと跳ねた蜂蜜色の髪が、そっと近づいて口付けがひとつ。 「カワイイ事言うなよ。襲っちまうぞ?」 「ばかディーノ」 頬にのせられた温かな手を、払うふりをして顔を隠す。 自分の言った事が、今さら恥ずかしくなってしまったなんて、気付かれてしまっただろうか。 それすら恥ずかしくなってきて、指の隙間からディーノを睨んだ。 「ホント、可愛いなぁ、は」 顔を綻ばす、というより崩すように笑ったディーノには、お見通しだったらしい。 顔の前から動かせなくなった手が、取り除かれてもう一度、とキスが降る。 「好きだぜ」 まどろみと同じ温度の口付けは、温く心地いい。 「ディーノ、」 名前を呼ぶ。 ああまただ、と思った。 ディーノのキスに酔いだす。けれどもすっかり目が覚めた後だからか、好きだ、と返せない。 自分もそうだと、ことばが出てこない。 「ディーノ」 時々、受け入れるだけで何も返せない事に、あせりを感じて、苛立つ。 いつかこの温もりが、自分の呼ぶ声に振り返ってくれなくなるのではないか。 何より、そうなった時たぶん自分は何も言えない。 「」 やさしい声に、縋りつくように腕をのばした。 「ん、どうした?眠い?」 ちがう、と首を振って。 好き、という言葉を含んだ口でキスをした。 絡まった舌の上で溶けて、ちゃんとディーノに伝わればいい。 そう思うと、それはひどく甘い気がした。 ン、と唇を舐めあげて離れたディーノの舌が、耳元でささやく。 「、愛してる」 その陶酔の中で。 きっと、と考えた。 きっと愛のコトバは、甘い大粒の飴玉に似ている。