金属の高い音で、玄関の呼び出しベルが鳴った。
  いつもと変わりない音が、やけに澄んで聴こえたのは、聖夜のうつくしいひかりが彩るせいだ。

  さて、飾られたヤドリギの下に待つ人物は誰であろうかと、扉を開けた。


  ばさりと、付きつけられたのは薔薇の花束。

   「め、Merry christmas...」

  片手で花束を捧げ、半身をずらしてあさっての方向に視線をそらしてアーサーが居心地悪げにそこに居た。

  「・・アーサー?」

  一瞬だけ虚を突かれた顔を曝したあと、噴き出して笑い始める。
  呆れるより貶すより先に、笑いがこみあげてきたことで、今日の自分は機嫌が良かったのだと知った。

  アーサーは笑いだした俺を赤らめた顔で見て、むっと眉根を寄せた。
  けれどもその直前に、拒絶がない事に安堵したのだろうほっとした表情も、見逃しはしなかった。
  これも聖夜のおかげだったか。

  「なっ・・!お、お前のためにわざわざ準備したわけじゃねえぞ!ようせ・・友達が言うから・・!」

  たまたまきれいに咲いた薔薇を見つけて、やらもごもごと言い訳をしている。
  いろいろと実情を暴いていることには気が付いていないようだ。

  「くっ、でもそれは、根本的に、違うだろ・・」

  俺を相手に、聖夜に薔薇の花束を、だなどと。
  きょとんとまばたくアーサーが、微笑ましいくらいに酷くおかしかった。

  笑いの発作が治まってきたところで、差し出された花束を受け取り、開いた手を引いてやる。
  赤い頬もそのままで、アーサーはおとなしくついてきた。
  突然の、非常識な訪問だったが、まぁ。

  「晩餐には、間に合ったな」

  まさに用意が整ったばかりのテーブルの上には、たっぷりとした量がのっている。
  クリスマスくらいは豪勢にしようと気紛れに用意したのだが、結果的に丁度良かった。

  甘いクリスマスプディングまで、満足いくように振る舞ってやろう。

  テーブルを見て、タイミングの良さに目を丸くしたアーサーに振り向く。


  思いっきり笑った余韻で酷く緩んでいたのだろう。
  自分でも驚くほど優しい、囁きになった。


  「Merry christmas!」