※雰囲気 R‐15。
結婚式の英視点。
Wedlock is a padlock
何時も通りに振る舞っているのに、頼りなく見える背を追って式典を抜け出した。
必要な個所は終わっており、だからこそも抜けたのだろう。義務は確実にこなす人だ。
広いベットに着いた途端、崩れるように倒れ込んだ背に心臓が嫌な音をたてた。
ああまさか、誰よりも強い彼がこれほどに弱っていたなんて。
「・・大丈夫か?」
上手く声が出ないのは、気持ちばかりが焦るせいだ。
「近づくな」
拒絶は変わらないことに少しだけ安堵して傍に寄る。
動こうとしないケヴィンが心配で、逃げられないことが不謹慎にも嬉しくて。
「具合が悪いことはわかってたんだが、いつも通りだったから、平気なのかと・・」
反応はなかったが、本当に心配していた。なにせ国家として形を保てなくなるかもしれないほどの問題だった。
はあくまでもこの合邦という婚姻を嫌がったから、無理を言ったことは自覚している。
伺い見たの口元が歪むのが見えた。
嘲笑じみた笑み、俺に唯一見せてくれる笑みだ。
もう、受け慣れてしまったそれには何とも感じないが、彼の笑顔はキレイだと思いながら長い前髪に手を触れた。
触れているのだけれど、近づくことなんてできないような、もどかしさを感じる。
はいつだって拒絶を纏っている。
心配していた?
違うだろう。
俺は、心臓が跳ねるほど嬉しいのだ。
やっと、手に入れた。
仰向けにして抑え込むと、苛立たしげに睨まれた。けれど熱にあえぐその眼は俺を煽り立てるだけだ。
互いの息遣いは温度差をもって部屋を満たす。
焦燥に余裕のないその様で、実感を得る。
北の辺境に古くから存在した小国。
彼は競争に勝つために一個体になることを選ぶ、野生に生きる獣のままだ。
いつからだったか。兄が拒絶するのは、自分だけでは無いのだと気が付いたのは。兄は、彼は。
ただいつだって毅然とした、むしろ傲岸にさえ見えるほどに孤高だった。
独りであることと、一人でいることは違うのだと気がつかされた。
戦士として野を駆ける獣であり、しかしながら玉座を持つ騎士。
ならば引きずりおろしてしまえば良い。
手に入らないのならば、一度崩れ落ちて仕舞えば良いと思った。その残滓をかき集めて再構築するのもいい気がして。
手放しはしない。繋ぐためには何だってする。
燃え立つ熱がの身を焦がす、その焔すらも俺のものにしてやろう。
兄と弟では駄目だというなら。
「ならば伴侶として、俺のそばに居ろ」
の長い指に当然とおさまるシルバーの輝きに心が満ちる感覚を覚えた。自分が嵌めた指輪にくちづけを落とす。
強張りけれど逃げないその手に唇を押し当てる。手の甲、手首。
手首のキスは欲望だと、誰かがいった。そう、これはまさしく欲望だ。欲している。
掌に頬を寄せ、キスを落とす。
これは、欲望が遂げられる瞬間だ。彼が欲しい。が気だるげに俺を見上げた。
俺達は一つになるべきなんだ。
やっと、手に、入れた。この手に、墜ちてくれた。
これは俺のものだ。
ぎしりとスプリングを軋ませて屈みこむ。凪いでいた真新しいシーツの海が波立つ。
熱に浮かされて濡れた目には、泥水の憎悪と、烈火の怒り。かつてひどく傷つけられたそれと似た目にけれども今は、
たじろぎも覚えずに見返しその温んだ怒りを受け入れた。鋭い氷片の拒絶に慣れた俺には少しも怖くない。
口を塞ぐ。喘ぐ息に唇を噛みしめる余裕もない、その隙間に舌を滑りこませた。
「う、ぁ・・ア、さ・・っ!」
拒絶する素振りなど無いものだとして、好き勝手に触れ、絡め、引き寄せる。お前が、欲しいんだ。
離さない。少しだって。
舌を絡めたまま喉から鎖骨を撫でおろし、服の中まで手を差し入れて乱していく。
緩められていた襟元をさらに寛げて次第に白い肌を暴く。晒していく。
時折呼吸のためにキスを中断するとあふれた唾液が二人の間をつないだ。
の、頬を伝う生理的な涙と、息のあがった苦しげな顔を眺めながら肌をなぞっていく。
ゆっくりと、浸食していく感覚が堪らなく気持ちよかった。