死刑執行人。あるいは公開処刑人。
その文字通りに、暗殺の真逆をいくのが俺のお仕事。
もちろん“公開”とはいっても裏社会限定ではある。
性質上露出も多く、戦闘の痕跡は如実に示される。といっても手の内には鉛玉しかないわけだが。
銀色に侵された鋼鉄の銃身を持つ愛銃と、派手に暴れまわるのが俺のやり方。
なるだけ多くの人間に、
ボンゴレである誇りを
ボンゴレにある重みを
ボンゴレをしての正しさを、
明確に明瞭に明晰に、魅せつけてやるのが この俺の、意義なのだ。
今日もさんざんな一日が終わった。
はぁ、とだるくため息をこぼして後悔と反省の代わりにする。
(まぁ、でも、リボーンのやつが姿を見せなかったのは良かったかな、)
そう考えて、少しだけよくなった気分でいつもの帰り道を歩いた。
「10代目!!」
後ろから突然響いた大声に、びく、と体が強張った。
「ご、獄寺くん!どうしたの?」
(昨日もあったなぁこうゆうの。オレ、ビビり過ぎだよなぁ・・)
情けなくなりながら振り返ると、獄寺くんが走って追いつくところだった。
「呼び止めてしまってすいません!あの、ウワサですけど、昨日なんかヤバい奴が並盛に来たらしいんスよ。
今日はリボーンさんもいらっしゃらないので、オレが10代目をお送りします!!」
「や・・やばい奴って・・?」
獄寺くんはまわりを警戒するように声をひそめて、言った。
「銃一丁だけで中小マフィアいくつも潰してるってゆう・・」
「ええぇぇぇーーーっ!!っていうかマフィアが並盛に!?」
なんなんだ、と思いながら、あれ?と何かが引っ掛かった。
「さぁ?マフィアかどうかはわかんねーっスけど・・」
獄寺くんは曖昧にうなずいて、とりあえず帰りましょう。と物騒な話を持ってきたわりに暢気に笑って言った。
かすかに覚えた違和感が驚愕に変わったのは十数分後。
「ciao、昨日ぶりだね、綱吉くん」
オレたちの前から手を振ったのはさん。ボンゴレの…死刑執行人だという人だ。
怖そうな役職だし、銃なんて出してたけど、最近のオレの周りはそんなのばっかりだからもうなんとなく諦めてしまった。
昨日はリボーンがさっさと追い返しちゃって、ホントに仲が悪いんだと思わされた。
(それにしても、カッコいい人だよなー・・)
仕草一つとっても、随分と様になる。
「ぁあ!?誰だてめぇ!!10代目に何の用だ!!」
「ちょ、獄寺くん!!」
見惚れていた(っていうんだろうな)ら、挨拶をかえすより先に、獄寺くんが前に出て彼を睨みあげていた。
「スモーキン・ボム、獄寺隼人か。聞いてはいたけど、ほんとにファミリーに入るんだ?」
斜めに見下ろすようにしてさんが言う。
からかわれたと思ったのか、獄寺くんの顔が赤くなった。目付きがさらに悪くなる。
「・・っンだよ、なんか文句あんのか!オレは10代目の右腕になるんだからな!!」
こんな往来で、そんな大声で言わないでほしい!
普通の人にはわけわかんなくても、目立つし、知ってる人は獄寺くんのいう10代目が俺だって知ってるし。
思わずそんなことを考えたが、はっとして叫ばれたその人に目を向ける。
怒って銃なんか出されたらどうしよう!
けれど。
予想外にも、そこには最高に楽しそうな、笑顔。
「・・へぇ、(臆面もなく、叫ぶのか)」
吃驚、した。
獄寺くんも固まっている。
見惚れる。
「文句なんて言わない。俺にそうする権利なんてないし、俺は綱吉くんを気に入ってる。
ファミリーになるのなら歓迎してやろう。いいよお前なら大歓迎だ!」
子供が浮かべるような、純粋に無垢を重ねたような、笑み。
「はじめましてスモーキン・ボム。自己紹介をしとこうか。
俺はボンゴレの死刑執行人。=。
裏社会の表舞台で堂々と、ファミリーを護るために殺すのが、俺の役割だ!」
「ジュ、ジュスティッツィエーレ・・・!!」
愕然と、獄寺くんが声を漏らす。にこにことしたままさんが肯いた。
「知ってるはずだろ?そのための執行人だ。アルコバレーノよりも知れている」
「も、もちろんっス!知らない奴なんてモグリっスよ絶対!それよりも、何で日本に?」
さっきと違う意味で獄寺くんの頬が赤い。
あれ、と思った。
マフィアの世界なんて知ったこっちゃないんだけど、獄寺くんのディーノさんなんかに対する態度じゃ、ない。
どっちかといえばリボーンに対するような。
「日本には10代目を見に来たんだ。あと、友達が日本に居てね」
「(あっさりーー!!)・・昨日は、秘密だって・・」
オレがいうと、だってリボーン命令口調だったし。なんて笑顔で言われた。
「10代目は、昨日会われたんですか?」
再び歩き出しながら、獄寺くんがきく。なんだかいまさらの質問だ。
「昨日、並盛に来たんだよ」
さんが言う。ここで、やっと違和感の正体に気がついた。
「あぁ!!もしかしてウワサの人ってさんだったんじゃ・・!」
「ああ、執行人の得物って銃でしたね!」
納得した獄寺くんと一緒に、さんにウワサ、の説明をする。
「・・なあ、その中途半端なウワサの出所は?」
ぴたり、とさんの足が止まる。
「シャマルって藪医者っスけど・・」
「Dr.シャマル、三又矛?」
「し、知り合いですか?」
ちょっと顔をしかめて、獄寺くんに居場所を聞く。
並盛中の保健室だと教えられるとさんはうなづいた。シャマルに会いに行くことにしたらしい。
「ごめんな、後でもう一回顔見せに来るから、綱吉くん」
「いいですよそんな・・!さんも・・」
そこでふと、長くキレイな指が顔の前に現れる。窘めるようにゆら、と動いて。
「あ、それ、名前。呼ぶんだったら呼び捨てがいいな」
(よ、呼びづらいって・・!!)
けど、ね、となんの含みもなく笑って念を押されては、否定の言葉がでない。
頼まれたのだから、仕方ないと、そう思わされる。
「・・じゃあ、も、綱吉くんじゃなくて、ツナでいいです、から」
せめて、と思ってオレへの呼び方も変えてもらおうとそう言った。
、はこんどは悪戯気に笑って、オレのおでこにキスを残して去って行った。
「!!」
いたたまれないからってだけだったけど、親しくなれた気になって、いいんだろうか。
「じゃあまたね、ツナと隼人!」
(ああでも、心臓に悪い人だ!!)
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