「ねぇ獄寺くん。さん学校に行ったんでしょ?」
「そうっスよ。あの藪医者、まだ保健室で酒飲んでましたから」
「学校はわかるって言ってたけど、保健室の場所わかるかな?
オレなんか、今日、風紀委員の校内見回りがあるって聞いた気が・・」
「だ、大丈夫っすよ!!あの人が雲雀なんかにやられるわけないっスから!」
「だ、だよね!」
(会ってないと、いいけど・・)
「部外者は立ち入り禁止だよ」
出会い頭にいきなりふるわれた暴力に、日本人の常識を疑ってしまった。
即座にツナを思い出して否定したが、現実は容赦なく攻撃してくる。まぁ余裕なのだけど。
(それにしても、)
黒髪黒目、小柄で童顔(それは中学生だからか)典型的なヤマトナデシコ!(っていうのはお嬢さん相手にいうのかな)
、なんて思いつつ少年のトンファーを避けていたら、少年がやっと口をきいてくれた。
「何とか言いなよ。ここに何の用?」
・・話すのは俺の番だったようだ。
「申し訳ない。不法侵入は認めるよ。学校に、というか、学校の保健室に用があったんだけど場所が分からなくてね」
納得したのか、やっとトンファーが動きを止める。
「・・ふぅん。保健室、ね・・あなた、もしかして赤ん坊の知り合い?」
赤ん坊、といえば思い浮かぶのはあの小さくて凶暴なアルコバレーノ。ツナの通う学校だし、など計算に入れて。
「そうなんだ。初めまして、執行人、=と云います。君は?」
「・・・僕は、並盛中風紀委員の雲雀 恭弥。赤ん坊の知り合いなら、今日は見逃してあげる。ついてきなよ」
忙しいんだ。用事終わったら、さっさと帰ってよね。と言って雲雀恭弥クンが背を向けた。方向はあってたんだな、俺。
でもにこやかに差し出した右手がとても悲しかったので、嫌がりそうな呼び捨てにすることに決定。
「grazie!どうもありがとう。恭弥の髪と瞳、キレイだね。漆黒っていうのかな?少し、見惚れちゃったよ」
(嘘は、言ってないし)
照れてくれるかな、と思ってみていると恭弥は一度びく、と足を止め聞かなかったことにしたらしく(また無視?)
足早に歩き出した。
このくらいにしておいてやろう、と一人で笑って、案内してくれるらしい恭弥の後を追った。
保健室の手前で恭弥と別れて、さて、と扉の前に立つ。
(イイコだったな恭弥。ツナに後で聞いてみよう)
主にトンファー振り回してきた理由とか。“執行人”には反応無かったので、おそらく隼人みたいな手合いではない、が、
なかなかスジが良さそうだった。戦闘に躊躇いがない。
「誰だ、そこに突っ立ってるやつぁ」
保健室の中から面倒くさげな声がかかった。
「三又矛、勘が鈍った?気づくのが遅いんじゃあない?」
「・・執行人」
がらり、と扉が開いて、姿を現したのはアルコールの入った様子のシャマル。
「ciao.ヤバい奴が来ましたよ。中に入れてくださいます?」
「(げ、)」
あからさまに顔をしかめたシャマルに、にやっと笑ってやって無防備な脇腹に蹴りを入れる。
「おや、もう女の人たちには相手にされなくなったの?独り淋しく酔っちゃって・・」
転がった可哀相なものを見やって、保健室のいすに座った。
「(チッ)、何しにきやがった」
「お前が中途半端なウワサするから、忠告しに来てあげたんだよ」
反論も抗議もしないのは、さすがシャマル、賢明だ。俺は知り合いでも躊躇なく急所を狙える。
「執行人の情報は、確実さを持たせてこそだろうに。しかもなんだ?中小マフィアだって?
最近ボンゴレにちょっかい出すのが、勘違いした世間知らずしかいない、ってだけだろう?」
「へーへーすいませんでした。今度から、はオレでさえ苦戦する、最高級のヒットマンだって言っといてやるよ」
なんせおまえ、トリガーさえ引ければ容赦なく殺そうとしてくるしなー。
遠い眼をするシャマルにまあね、と微笑んであげて。
「まぁ今回は隼人を脅かそうとしただけだろうしね。忘れてあげるけど、
こんど俺の仕事邪魔するような真似したら、血塗れになるってコト、覚えといてね」
言うと、本当に嫌そうな顔をされた。
用は済んだし、と立ち上がりかけたところでシャマルが開いたワインのビンを俺に手渡した。
「それで、。今回日本にきた、正確な情報は?」
受取って直にあおる。この男の目利きだけは信用できる。おいしい、と瓶口を舐めて、質問に嗤った。
「しばらく俺が日本に居たら、目くらましになるでしょ?」
ボンゴレの十代目候補が日本にいるってことくらい、すぐに調べがつくしねぇ。
リボーンや跳ね馬がそばに居るとはいえ、標的にされる数が少なくなるわけじゃない。
彼らはまだ未成熟で、あわよくば、なんて奴らも食いつく。
俺が彼らの前に立てば、そういう頭の足りない奴らって、目立つ方にいっちゃうし。
「それに俺の面白いお友達が、日本に帰国したって聞いたしね」
「あー・・、つまりまたお前はボンゴレのために囮になりに来て、そのついでに友達に会いに行く、って事か」
呆れたように要約して、シャマルはバカが、と顔を顰めた。
彼の信念に反することを言ったのは自覚している。けれど。
(さすがシャマル、賢明だ)
余計なことは言わなくていい。命云々なんて、俺にいっても無駄なこと。顰めた顔は、可愛げだと取ってあげよう。
聞かれたから正直に答えた。
それくらいには、シャマルを信用していて、気を許していることを、なにより彼が理解できるような男だから。
苦虫を噛んでいるような顔を、笑ってやる。
もう一口ワインをあおって、少しだけ訂正を入れた。
「ついでじゃなくて、本命って言いたいくらいのお友達さ。笑えない冗談くらい、可笑しいよ」
「は?意味わかんねぇよ・・もしかしてアメリカで知り合ったのか?」
そうそう、と軽く頷いて。
「まぁ、戯言、らしいけどね」
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