世界が違う、というやつだろうか。 それとも、まだ数回しか顔を合せていないからか。あの人は遠い人だと感じる。 ずれている。立ち位置が、性質が、根源がすれ違っている。 細身で足が長く、カッコいい外人のお兄さん。ディーノさんより若そうだが、落ち着いて冷静そうな人。 男らしいというより美人。目立つ人だと思った。 けど、雰囲気というか。 何となく、近づけない気がする。だから眼につくのだろうか。 近くに見えるのに届かない。遠近感が狂って届きそうだと手を伸ばしたら空まわってしまったというような寂しさ。 もしかしたら、 寂しいと感じているのは、あの人なのかもしれない。 「ねぇリボーン。さんの執行人っていうやつ、なんなの?」 「執行人ってのは、ボンゴレ特有の、いや、あいつ独自の役職だぞ。あいつは単独行動しかしねぇ。銀の銃一丁で、 敵と断定されたヤツらは皆殺し。公開処刑と称されるのは、見せしめにその殲滅したファミリーの驚くほど詳細で 正確な情報が流されて、塵一つも残らねぇからだぞ」 なんとなく訊ねてみると、思ったよりすらすらとした答えが返ってきた。 内容も思った以上に物騒だったけど。 「ええぇぇ!!!あの、さんが!!??」 「それだけじゃねぇぞ。あいつが有名なのは『執行人を襲っても全て返り討ちにされる』という事実があるからだ。 ご丁寧に、返り討ちにされたヤツらの情報も即座に流されるって話だな」 「(す、凄まじい・・・)」 「ボンゴレは巨大だ。そのなかで敵意をもつなら一番狙い易く、一番厄介なのは執行人だ。情報も手に入れやすい」 なんせ、どこにいてだれを倒したかって情報は探すまでもなく差し出されるんだからな。 「それじゃあ、さんが危なくない・・?」 リボーンの帽子のつばがくい、と下がる。ただでさえ解りづらい表情が隠れた。 「・・あいつは、全部わかっててやってんだ。自分勝手にな」 だろう?とリボーンはドアに向かって言った。盗み聞きしてんな、と鋭い声がとぶ。 (え?) 人聞きの悪い。扉が開いて、そんな言葉が返ってきた。 「今来たんだけど?入るよ、ツナ」 「さん!」 驚いて叫んでしまうと、入ってきたさんがす、とオレの顔を捕まえた。 (って!近いちかい!!顔が近いんですけど!!) いくら男の人だと言え、この人に間近で微笑まれると赤面する。前科があったのも思い出した。 「ツ・ナ?駄目だよ自分で言った事をわすれちゃ」 「え!?な、なんですかっ?」 どもって裏返った声は、判らないと聞こえたらしい。 (う、うわぁっっ) 軽く頬に触れる感触がして、異様なこの状況がさらにわからなくなる。 とっさにつぶった目が開けられない。 「さんじゃなくて、、だ」 「あ」 そういえばそうだった。放してもらえたので目を開く。 「さっきのはお仕置き。ちなみに、頬へのキスは親愛の情だね」 リボーンのスパルタよりマシでしょ?リボーンの表情がぴくりと動く。 「俺のはアイの鞭だからな。スパルタの方がマシに決まってるだろ」 (なんか論点が違うー!!) さすがイタリア人!ってやつかな・・。 「ご、ごめんなさい。・・」 銃が出てくる前に、と謝る。これ以上心臓に悪いことはいやだ。 「よくできました。あ、そうだ言おうと思ってたんだけど、下で牛柄のおちびちゃんが危険物振り回してたけど大丈夫?」 ・・どっちにしろ精神的に良いことはないらしかった。 「またランボのやつー!ちょっと行ってきますっ」 オレが慌ただしく飛び出した部屋の中。 「あんまり余計なことは言わないでよね、リボーン」 「俺はツナの家庭教師だからな」 リボーンがを見て。 「・・まだ、ツナを認めたわけじゃねぇんだな」 言外のことばを受けて。 「そうだね。まだ、忘れきれてないのかも、ね」 が寂しそうに笑ったのなんて、オレは知らなかったけど。 →next