※雰囲気 R‐15。 不適任者の続き。 a wolf in sheep's clothing そんなに、慰めて欲しいのか? ふと、深い水面の瞳がゆらめいた、気がした。 愛してやろうか。 この男は今そう言った。 なんで。 何よりも欲しかったそのことばを、この瞬間に聞くんだ。愛を裏切られたばかりの、このタイミングに。 愛しむ、そんな形容が似合うような仕草でその腕に閉じ込められて世界から遮断された。乗り上げられた体勢で、包み込むように。 逃げ込んでいいのだと伝える様に。 ああ、何故。 自分にとって、全てと引き換えにしたっていいぐらいの幸福が、目の前に提示されている。 迷う必要もない程、望んでいたことじゃないか。心の奥底から、永い間。 ずっとずっとその温もりに憧れて、一つになるべきだと、追いかけ続けて。 どうして、躊躇ってしまうんだ。疑心に囚われることが正常だと、どこかで思ってしまう。 身体が竦む。 これは、性質の悪い悪夢なんだろうか。 裏切りを、信じる前に恐れる。刷り込まれてきた暗黙のルール。一時の幻でも良いからと、望んだのは自分だったのに。 そっと、顔の輪郭をなぞった手が短い距離を導く。慈雨みたいに降る口付け。 嘘だろう、と笑い飛ばす余裕はとっくに無い。 身体が、震える。 「どう、して」 「・・お前は、」 せめて、目を閉じるべきだった。 「お前はもう、与えられるものを甘受するだけの子供じゃ、ないだろう?」 優しく笑って、含ませた悪意を教示する、その顔を見るべきじゃあ無かった。 見なければ安堵なんて、持たなかっただろうに。 純粋な愛だと信じて、踏み留まることもできたかもしれないのに。 含有されたそれに、安堵を覚え―――澱んで。 沈むばかりの、その湖水。 ひそりと冷えた唇が再び落とされる。押し退ける必要性は皆無だった。 解ってる。 今だけでいい。 全部嘘だって構わないから。 愛して欲しい。 うわ言のように言い放つと、頬をすべったその唇に口をふさがれる。椅子に押し付けた身体に縋りつく。 涙の味のくちづけで、やっと自分が泣いていたことを知った。 「・・ 」 触れ合った所から熱が移って、次第に高まっていく温度を感じ取る。 「 、 」 何も考えずに舌を絡め、溺れていく。けど、ひりつく渇きが次第しだいに脳裏を占めていく。 足りない、これだけじゃ到底、足りない。 「足り、ない」 「アーサー、」 お前から仕掛けたんだ。なんでもいい。手荒くてもいいから。 「もっと・・っ」 もっと俺を呼べ。 早くこの空っぽの中身を、満たしてくれ。