ちょうど桜の盛りが過ぎた頃。

 散り逝くそれらを纏うように、その人は並盛へと来訪した。










 さて、まずはご挨拶。
 第一印象は大切である。人間関係はうんざりするほど複雑になりえるものだ。

 ・・すっぱりと終わらせるのも得意だけれど。


 「ciao!はじめまして、沢田綱吉くん」


 背後から朗らかさを心がけた声をかけると、沢田綱吉という名の少年は大げさなほど驚いて、おどおどと振り返った。
 キョロキョロと落ち着かなさげに、けれどもフルネームを呼ばれたからにはやっぱり自分のことだと理解したらしい。
 小動物みたいな警戒の仕方に、ただの愛想笑いが自然な笑顔になる。今度から正面にまわってあげようか。

 すい、と握手のための手を差し出す。
 会えて嬉しい、と言うとおずおずとてのひらが触れた。

 「こ、こんにちは・・?えぇ、と、何でオレの名前・・?(チャオって、もしかして)」


 ごくごく普通の、一般的な、日本人の典型って、こういうものなんだろうなという対応なのかもしれない。

 けれどもそれは、俺にとって酷く新鮮だ。


 「あぁごめん、はじめましてボンゴレ10代目。って、言ったほうがよかったかな?」


 「(や、やっぱりマフィア関連だーーーーー!!!!)」


 青い顔でショックを受たのか面白いほど素直に固まる。大きく開いた眼が、こちらを凝視している。
 畏怖と怯えと、心配と諦め。

 でも、そこに嫌悪はない、ね。

 彼自身のデータは、一般庶民、と薄すぎて逆に未知を感じたほどしかなかった。
 彼の背景に比べて、差異を感じるほどしか。


 「俺は」


 おもしろい。


 「偉大なるボンゴレファミリーの、一員に連なるものでございます!」


 “沢田綱吉”が俺に与えた第一印象は、上々、だ。  



















 「で、お前は何しに日本に来たんだ?9代目は何も言ってなかったぞ」


 沢田家の少しばかり散らかった綱吉くんの部屋で、リボーンは優雅にエスプレッソを飲みながらそう聞いた。
 部屋の主は主導権なんかとっくに放棄しているらしく、俺を連れてきたまま肩身が狭そうに座っている。

 当たり前に主導権を握った赤ん坊が少しばかり不機嫌そうなのは、俺の来訪が突然だったせいだろう。

 ボンゴレ一のヒットマンは、自負と自信をその小さな体以上に、異常に、持ち合わせていらっしゃる。

 というか、不機嫌なのは綱吉くんが、お茶をと席を立とうとしたが無理に座らせられた時に確定してた。


 「何しに?これといった動機はないね。ちょっとした理由さえあれば、俺は基本的にどこにでも行くし」


 「その理由を言え」

 無駄に上から目線だと、教える気がしなくなる。
 笑ってプライベートだから秘密だ、と答えると、黒光りする銃口が眉間を狙っていた。


 カチャリ、と。

 ・・
 二丁の銃が交差して。



 「リ、リボーン!家のなかでソレ出すなよ!!(なにこの2人ーー!!)」

 正確に言うとリボーンの可愛らしい腕では俺の腕とは交わらなかったが、銃口の向く殺気は正しく交差していた。

 リボーンは綱吉くんの声に、チッと煩げにしながらも銃をしまった。ので、俺も仕舞うことにする。
 俺とでは、不毛な争いだ。

 「ごめんな、綱吉くん。無闇には撃たないから見逃しておいて」


 (銃を出すのはやめないんですか!?)

 という顔色の綱吉くんはそれでも流すことにしたらしく、俺のほうをちらちらと気にしながら、
 それで、えぇと、と遠慮がちに口を開いた。


 「・・ボンゴレの、人がどうして」

 「ホントに今回は何も無いよ。ま、役職がらの巡回とでも?」

 役職?と不思議そうな顔。

 「なんだ、リボーン、俺のこと教えてなかったの?訊かれなかったから、知ってんのかと思った」 

 「言う必要が無かったからな」


 今度は銃なしでふふん、と笑いあう。


 「(もしかしてこの2人、仲悪い・・?)」
 

 「家庭教師なんでしょ?」

 言うと、リボーンは自分で話すことにしたらしく、飲み干したカップをテーブルに置いた。
 珍しく俺に反論が無いのは、潮時と、考えていたのだろう。

 つぶらな、でも感情の一切読めない瞳が綱吉くんをつらぬく。

 無知な生徒にいかにも毒を、教えるようだ。



                    
 「ツナ、こいつはボンゴレ第一の報復者。死刑執行人(ジュスティッツィエーレ)。


 ボンゴレに叛いたモノに、力でもって制圧するのが仕事だぞ」






 







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